猫の恩返し

私は、もの心ついた時から猫と友達だった。

兄弟姉妹もいたが、どういう訳か猫はいつも私の側にばかりいた。
冬の夜は、こっそりと私の布団に潜り、身体のうえに乗って眠っていた。
あまりの重さに、睡眠を邪魔され怒ったこともありました。
 
そんなことは、どこにでもある当然の日々でしょう。
 
しかしながら、この体験だけは深く心に残っています。
 
かれこれ45年ほど前、結婚して1年ほどたち、
夫婦で北海道の馬産地で馬達の世話に明け暮れていた頃のことです
今も、その跡地に住んでいますが。
 
誰かが、我が家にお腹の大きい猫を捨てていったのです。
間もなく、馬小屋の片隅に2匹の子猫が生まれました!
2匹ともきじねこ(トラトラ)でオスとメス一匹ずつでした。
 
エサは上げていましたが、警戒心が強く、いつもビクビクしている猫達で、私達は、一度も触った事がありませんでした。
秋になると母猫は、子別れするように姿を消し、2匹の子供だけ残されました。
 
その翌年のことでした。
寝藁干しをしていた私たちの耳に、4,5匹のけたたましい犬の声が飛び込んできたのです!
それに混じって「ギャー!」という猫の悲鳴!
犬だ!犬に襲われている!
 
その頃、野犬が群れになっているのをよく見かけていました。
私は、とっさに棒を持って駆け出しました!
声のする方へ、柵を超え、隣りの牧場に向かって!
 
いました!
いつも逃げ回って、一度も抱き上げたことのなかったメス猫(ノン)ちゃんが!
 
5匹の犬に吠えたてられ、牧柵の杭の上で体を丸め、全身の毛を逆立て大きく口を開け、威嚇しながら荒い息を発し、恐怖に怯えていたのです。
「ギャー!ウオー!」
と悲鳴を上げて怒り狂っている!
命の危機です!
明らかに、野犬達は餌として狙っていたのだ!
 
「コラー‼」
「何をしている‼」
棒を振り上げる私に、悔し気に逃げて行く野犬!
幾度も振り返りながら吠えたてる彼らの目には、ありありと獲物を横取りされた悔しさがにじみ出ていた!
棒を持っていなければ、間違いなく襲ってきたであろう!
 
さあー、ノンちゃんをどうする?
いつも野生動物そのものの猫だ!
暴れたら手に負えない!
だが、、、、
意を決し、恐る恐る手を差し伸べると、ノンちゃんは!
ワナワナ震えながら私にしがみついて来たのです。
 
意外でした!
一度も触らせたことなど、なかったのに!
野生そのものだったのに!
がっちりとしがみついたノンちゃんは、肩越しに小刻みに震えながら野犬の動向を目でおっていました。
 
余程恐ろしかったのでしょう。
その震えは、私の肉体に振動しました。
連れ帰り、地面におろすとしばらくは、ビクビク、キョロキョロして周りの様子を伺っていました。
 
小一時間ほどして、やっと落ち着きを取り戻したようでした。
 
すると、馬小屋の側で仕事をしている私の側に駆け寄り、足に頭をこすり付けたではありませんか!
歩けないほどまとわりつきました。
そして、なかなかやめようとしませんでしたよ。
彼女の深い感謝が伝わってきました!
 
それからが、また驚きです!
ネズミを獲っては、私に差し出すのです。
小鳥を獲ってもです。
 
「お礼です!どうぞ、お召し上がりください!」
と、言わんばかりに、何度も何度も私を追いかけてきては、目前に置くのです!
「私は、いらないからね!」
「自分で、食べなさいね。」
それを理解するまで、一月ほどその行為は続きました!
 
そんな中から、私は、(様々な昔話、童話の中に出てくる動物達の恩返しは実話に基づくものなのだ。)と改めて実感しました。
 
大好きな猫達と生活しながら、今は、こんな体験が出来たこと、とても幸せに思っています。