瞳の中の宇宙

6年が過ぎて行きましたが、パートナーと死別したあの時、その瞬間の現象が今も私の心を捉え続けています。

 
大腸がんから肝臓、肺へと転移し闘病二年半。
最後は我が家で。
パートナーの意思を汲んで在宅医療に。
 
帰宅した翌日、すっかり瘦せ細ってしまった彼は布団の上に正座した。
そして深々と頭を下げた。
「今言わなければ、もう言えなくなってしまうから今言います。
本当に長い間お世話になりました。
僕の人生の中で一番お世話になった人なのに、僅かなものしか残してやれず、本当に申し訳ない。
中略ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
僕は、もの凄く幸せだった。楽しかった。
だけどM子ちゃんをこんな事にしてしまうなんて思わなかった。
本当に申し訳ない。」
そこまで言うと大きく息を吸い、又ゆっくり口を動かした。
「だけどM子ちゃんと暮らした四十何年がなかったら、僕の心を癒す場所はどこにもなかった。
本当にありがとうございました。」
まるで恩師にでもする様に、厳かに深々と頭を下げた。
 
闘病前は84キロ、そして60キロと瘦せ細り、立ち振る舞いもおぼつかなくなっていたパートナーは、帰宅直後、玄関前までゆっくりゆっくりと足を進め、うなだれていた。
「僕はもう、家の周りを歩く事も出来なくなったんだよ」
発した言葉は弱々しかった。
その姿が胸をよぎり目頭が熱くなった。
身体が崩れる程胸が痛い!
 
パートナーはけじめをつけていたのだ。
声は以前とは比べ物にならない程弱々しかったが、言葉として発する内容は清らかで凛としていた。
 
分かっていました!20歳の年齢差があるのですから普通に考えて見ても
パートナーとの死別は早くなる!
けれど、そんな計算で結婚した訳ではない。
 
五日後、パートナーは旅立った。
 
ベットに仰向けに横たわった彼は、もう言葉を発する事もなく肉体は固まったままであった。
浅い呼吸、しかし目だけはしっかり見開いて覗き込む私を捉えている。
声を掛けた!その時、私は瞬時にその瞳の中に吸い込まれた!
これは何なの??不思議な感覚だった。
そこには紛れもなく宇宙が広がっていたのだ!
戸外で見上げる夜空、いや宇宙の中を飛んでいた!そんな馬鹿な?
パートナーと宇宙は一体化している?
そして私もその中の一部だった。
 
ふと我に返る。
 
気がつくと彼の目じりから、ツーと涙が流れていた。
それがなにを意味していたのか?
なにを伝えようとしたのか?
謎解きは尽きないけれど、近頃やっと答えにたどり着けた様な気がしています。