曲がりなりにも真っ直ぐだ

この言葉も、母がよく言っていた言葉でした。

 
結婚して間もない頃、生まれも育ちも違う事が
これほどの誤解をもたらすものなのか?
と気づかされた言葉でもあります。
 
事の発端は、二人で牧場に柵を巡らせていた時の事です。
スコップで牧柵を埋めるための穴を掘るのは
元々農家の仕事に慣れていないパートナーにとって
大変なことだったでしょう。
手伝っている私も、一メートル程の穴を掘るのは大変です。
その人その人のやり方があると思い、私は、30センチ掘った後は
膝をついて
スコップで土を柔らかくしては、柄のついた鍋で掻き出す。
それが、私のやり方でした。
パートナーは、農家の仕事には慣れていないとはいえ
肩幅の広い骨格のガッチリした人でしたから
要領が悪いだけで仕事はあくまでも自分のペースでやっていました
 
ハッキリとは覚えていませんが、
3メートル程の間隔で穴を掘っていたのだと思いますが、
10個程の穴が掘り上がった所で牧柵を埋めて行きました。
その時です。一本埋めるたびに、
「真っすぐに、なっているか?」
とパートナーは尋ねるのです。
後でその牧柵の上に長い木を乗せてつないでいくので、
ジグザグでは困りますから、それは分かります。
でも4、5本まではいいのですが
それ以上離れている
遠くから声を掛けられても
見ている方の私は何と言っていいのか、分からなくなりました。
 
この広い大地に穴を掘って、
どの辺を真っすぐと答えればいいのでしょう?
柵作りは、素人の二人です。
その上パートナーは、やる気はあっても農家育ちの私から見ると
何かにつけて違っていました。
「曲がりなりにも真っ直ぐだ。いいんじゃない。」
思わず、母の口癖が飛び出しました。
「なんだっとー!ふざけているのか!いい加減にしろよ!」
「こっちは、真面目にやってるんだ!」
パートナーは、スコップを投げ出して怒り出したではありませんか!
 
日頃のストレスも加えてのことなのか?カンカンです。
その時、どんな会話をしたのか忘れましたが1時間は続いたでしょう。
私は、こんな激しい怒られ方は初めてで、
ハンマーで幾度も殴打された気分でした。

その後分かったことですが、
パートナーは、自分の言いたいことを全部はき出すまでは、
人の話を聞くようなタイプではありませんでした。
後で私の話を聞いて自分の過ちに気づくと直ぐに謝る人でしたが
長い時は3時間から5時間余りもガンガンと𠮟責され、
その後、「ゴメン、ゴメン」じゃね。
 
その事があってからパートナーは、何かにつけて
「曲がりなりにも真っ直ぐだ!」
を連発するようになっていました。
お笑いですよ。本当に!