恐怖

それは、初めての体験でした。

あの時ほど、少数者が暴徒化した何者かに襲われた時の恐怖心は、
こんなものなのかと思い知らされた事はありません!
 
そして、思いも寄らず突然その場に遭遇した時の自分自身の
不甲斐なさも思い知らされたのです。
 
私が、最初にその様な体験をしたのは
札幌のs化粧品会社の寮生活をしていた時でした。
二階には、3人部屋の部屋が10部屋、階下には玄関に食堂と管理人室、
少し離れて10畳程の和室がありました。
 
入社後、3か月の教育期間があり、
先輩方と同室の新入社員(各部屋に一人でした)が
4、5人集まって階下の和室で勉強していました。
 
あれは6月頃だったでしょうか。
夜の11時近かったはずです。
突然、爆音と言っていいのでしょうか。
一階の窓という窓、壁さえも何十人もの人間が
「出て来い!」と叫びながら叩き始めたのです!
その衝撃は、凄まじいものでした!
ガタガタ!バシバシ!バンバン!
今にも窓ガラスを割って誰かが襲って来そうに思われました!
身体が無意識に震えだしました。」
「出て来ーい!」
まるで、ゴリラが大木をゆすっているような感じです。
建物全体がゆれていました。
所かまわず叩いたりゆすったりしていたのでしょう。
私には、地震より怖かったです!
私達は、部屋の片隅に固まって、目を見張り、怯え、震えていました。

しばらくすると、「ワーアー!」
と混雑した声と共に(バタバタ)と走り去る足音がして
何事もなかったように静かになりました。
私達は、余りの衝撃にフラフラになって
二階の部屋に戻ろうと階段を上り始めると
「ビックリしたかい?毎年の事なんだわ!
 近くの大学生が暴れているんだわ!
 若いから体が余っているんだね!」
管理人の小母さんは、嬉しそうに説明してくれました。
 
この事を知っていたなら
さほど恐怖心を感じる事もなかったでしょうが
前ぶれもなくこの様な体験をすると、戦争、レイプ、いじめなどなど
その渦中の中にいる人達は、どんな怖い思いをされているだろうと、
胸が搔きむしられます。
死さえ隣り合わせなのですから。

私はあの時に、集団の怖さと、人間の怖さを
潜在意識の中に刷り込まれたような気がしています。