お迎え

年齢を重ねるにつれて、今までさほど気に掛ける事の無かった事が
気に掛かる様になってきました。

思えば、35年はとうに過ぎてしまいましたが、生前の父の言動がハッキリと脳裏に浮ぶのです。

あれは、母が亡くなって49日の法要に実家に行った時の事です。
既に80歳を過ぎて、時々横になる父に出会いました。
その老いた姿はまるでもう、この世の人ではないように眠っていました。
身動きもせず、ただ静かに。
(呼吸はしているのだろうか?)と、心配で顔を近づけ確かめました。
(肉体も精神ももう半分は天国へ行っているのね)
私は、そう思ったのです。

ところが、法要を終えて膳を囲んだ私の側で
「M子、本当にお迎えってあるもんだな。
(政雄、もう行くぞ!)って父さんと母さんが迎えに来たんだよ。
(俺はまだ行かない!)と言ったけどな」
父は真顔で言ったのです。
(エエーー?!)
私は、驚いてたずねました。
「自分のお父さんとお母さん、分かったの?」
私は、父が認知症になっているのではと勝手に思い込んでいたのです。
「当たり前だろ!自分の父さんと母さんだ!分からないはずないだろう!」
父は、語気を荒げました。
その答えを聞いて、私は、ハッとしました。
父は老いても、精神はしっかりしていたのです!

その時から私は、(死ぬ時には、父の様に父母が迎えに来てくれる?)のを楽しみにしている。
そうです!本当かな?
と、確かめたい気持ちでいっぱいなのです!
だから死もまた楽しい。