仏の耳(ぎんなんそう)

道南の春は早い!
もともと、降雪量の少ない上に晴天の日が多いここは、
3月末ともなると雪はあっという間に解けていく。
すると、山間のあちこちから春の山菜が芽吹き始める!
ふきのとうが最初に顔を出し、行者ニンニク、あさつき、ヨモギイラクサ10センチほどだが、ふきも顔を出している。
 
これらを山菜料理にして膳にのせる!
これは開拓農家で育った私達兄弟姉妹の共通の喜びのようです。
 
何かにつけて、「もう、何々を食べたよ!」が会話の始まりになっている。
 
我が家の周りは山菜の宝庫。早速札幌在住の長姉に送る事にしました。
友から戴いた(仏の耳)も入れて!
 
すると、「この中で、一番嬉しかったのは仏の耳だよ!」
「もう、ずーと食べた事ないもの!」
礼の電話の一声がこれだった。
それを聞きながら、幼い頃、母と海に採りに行った思い出話に花が咲いた。
 
三月の末になると、近所の小母さん達と私達姉妹の幾人かは母に連れられ、徒歩で山道を一時間半ほどかけ海に向かった。
岩場を渡りながら仏の耳を採るのだ。
冬の海水は冷たかった!
手を赤らめ頬を赤らめ、大人達は真剣に採っている。
日本海はここ道南の太平洋と違い、潮の満ち引きは小さいが、
それでも潮が引くと海藻は取りやすかった。
 
春休みで小学3年ぐらいだった私は、初めての経験にハシャイでいた。
カニもいた!海水の中の海藻や岩場の隙間に隠れている。
出かける前に母が用意してくれていた。
スルメをつけた紐で、面白いほどたくさん捕まえられた!
 
母も小母さん達も、皆、日頃のストレスから開放されたように顔は輝き、会話が踊っていた。
その側で私は、知らず知らずのうちに生きる術を学んでいたようだ。
 
帰りも、少々重い海藻とカニを背負った母達と長い道のりを歩いた。
これほどの道のりを歩いたのは初めてだった私は、へとへとに疲れて
帰宅後直ぐに眠ったような気がする。
 
夕食には、釜ゆでにしたカニと、じゃがいもと仏の耳の味噌汁だ!
海藻の臭いがしてわずかにとろみのついた熱々の味噌汁は、
身体をポカポカにしてくれる。
働き者の父は、膳につくとすぐさま味噌汁をすすった。
「うまいなー!」
思わず父の発した言葉に、家族全員が頷いていた。
家族揃って大きな円形の卓袱台を囲んですする味噌汁は、まさに絶品だった。
磯ガニは父のように上手に食べれなかったが、しゃぶると美味しいカニの味が
口の中に広がった。
 
そんな思い出を重ね、姉は喜んでくれたのです。
もう84歳を迎え、難病を抱えた姉に来年も送ってあげたい!と願っている。
体調不良をみじんも感じさせないしっかり者の姉だ。
苦難の人生を何時も前向きに生きている貴女に、どれほど助けられた事でしょう。
ありがとうございました。