結婚して2年目。
事件が起きたのは5月の末頃だったような気がします。
「いつの間にやられたんだー!?」
パートナーが朝の飼い葉をつけに厩舎に赴いて
すぐさま戻って来ま した!
すぐさま戻って来ま
メガネの奥の目は今にも飛び出し駆けだしそうに大きく揺らいでい た。
口元はわなわなと震え青ざめている。
瞬時にただ事ではない!と思った。
しかし彼の言動に頭を傾げたのも事実でした。
「 東京のカツラ屋がコッソリと馬のたて髪を切り取って行ったんだ! 」
「ええっ!まさか!?」
「あいつら、いつの間にやったんだ!
うちだけではないかもしれないぞ!!」
うちだけではないかもしれないぞ!!」
私にはとても信じられなかった。
パートナーから次々に繰り出される言葉は、新たなシナリオを作り出 している。それ以外にとらえ様がなかったのです。
しかしながら興奮し憤慨してランランと輝いた瞳は、 パートナーの心中を浮き彫りにしていた。
「チョッと獣医の所に行って来る!!」
「こんな事は許される事ではないぞ!」
立て続けに言葉が発せられた。
「エエー!!こんな事で!?」
そう思っている私の前を興奮状態のパートナーは
憑かれたように長靴を突っ掛け飛び出して行った。
憑かれたように長靴を突っ掛け飛び出して行った。
例え20歳の年齢差があろうとも、人生経験が少ないとは言え、
私にはパートナーの思い込み以外考えられなかった。
だが馬の事は素人。ふいの出来事に見守るしかない。
「本気で思っているのかしら?
東京のカツラ屋が無断で馬のたて髪を切って歩いている?
そんな馬鹿な?」
間もなく車が2台、せわし気に厩舎の側に止まった。
飛び出して行くと
「まあまあ落ち着いて!落ち着いて!」
掛かり付けの獣医さんが、パートナーを宥めている。
獣医さんは馬房の前に立つと、ません棒の下に顔を近づけ、
指でなぞっていた。
「ホラ見て見て!ここに毛が付いているべサ!
これだよこれ!痒くてここに擦り付けて搔いたんだよ!」
「ええっ!そんな事でこんなにたて髪がなくなるものなのかい?」
半信半疑でパートナーはません棒に顔を近づけている。
私も目を凝らして見ると、ません棒に僅かではあったが
毛が木の繊維にはさまっていた 。
私も目を凝らして見ると、ません棒に僅かではあったが
毛が木の繊維にはさまっていた
「これかい?てっきりカツラ屋に盗まれたとばっかり思ったよ!」
又もやカツラ屋が飛び出した。
大きく息を吸込み、パートナーはやっと興奮が収まり
穏やかな口調に 戻ってきた。
穏やかな口調に
他の馬達同様、早く餌をくれと騒ぐキクイチー号のたて髪は、
昨日までふさふさしていたのに、頭の近くと肩の近くを除いて
見事に なくなっている。
見事に
驚くのは無理ないか!?
そう思ってはみたものの、わざわざ獣医さんを呼んでくるとは。
何だか可笑しい。
「痒くて舟こいだんだ!舟!」
そう言い残し、苦笑いしながら獣医さんは戻って行った。
早朝から獣医さんには申し訳ありませんでしたが、大真面目での言動 です。
どうぞお許しを!
それにしてもパートナーのなんと想像力の逞しかった事でしょう。