忘れないうちにこの思い出も記す事としましょう。
(隼君) この人は亡きパートナーの思い出話に良く出て来る人です。
東京での少年時代。公園の鉄棒の上からの空中大回転、 決してやってはいけない事と前置きしながら、「 隼君は大きく揺らしてブランコを回転させ、見事に着地するんだ! 物凄く格好良くて皆の羨望の的だったよ!」
少年の日の思い出は何時もキラキラ輝いていて、 あの人の口元を飾っていました。
そんなパートナーに!
あれは結婚して2年目の冬、年末だった様に記憶しています。
午後3時半頃、 馬達を放牧地から厩舎に入れる為に迎えに行った時の事です。
8頭程の馬がいましたが、 先に大人しい馬を厩舎に入れ最後の暴れ馬はパートナーの出番でし た。
我が家では一番の暴れ馬、(あてお) は何時もどうり放牧場を右に左にと駆けずり回っていました! あておにしたら厩舎に早く入って美味しい餌を食べたい! 自分が皆より遅いのが気に食わない! そんな精神状態なのでしょう。
パートナーはそんな暴れ馬をもろともせず、 放牧地の柵の中へ入って行きました。
あておは側に来るが、 目がランランと光り、頭を大きく振って吐き出す息は白く、二本の棒の 様でした。
興奮して何時前足で叩きつけるか蹴とばすか油断出来ない! 状態です。
パートナーは「ドウドウドウドウ!」と幾度も声を掛け、 素早くもくしの顎のカンに引手のかんぬきを掛ける。
何時もの事だった。そこまでは。
しかしいきり立ったあておはそれを振り切って走り出した!
土煙が舞う!
予測していたとは言え、あておの力の方が増していたのだ!
瞬時に短く持っていたパートナーの引手がピンと張り、 ズルッと手元から1,5メール程端へ持っていかれた!
正にその時だ!
弾みでパートナーがアッと言う間に宙を飛んだ!
しかも計算されていた様な見事な着地です!
片足は折り曲げ、もう一方の膝を立て、 両手は水平にピーンと張っているではありませんか!
そして驚きと興奮の中、瞬時に周りを見回しています!
「凄かったね!」離れて見ていた私は、 思わずそんな言葉をかけていました。
「見、 た、 カァー!!」
パートナーは大地が割れる程の大声を発し、 鋭い眼差しで私を指差しました。
「良かったー!証人がいてくれて! こんな事誰に言っても絶対に信じてくれないよ!」
喜びの言葉には妙に力が入っていました!
「証人がいるよ!証人が!」
胸張って答えるパートナー。
その後、私はこの事が話題にのぼる度に駆り出されました。
彼は隼君と過ごした少年時代に戻り
「僕にだって出来たよ!」
と、皆に自慢したかったのでしょうか?