ドデント!

パートナーと結婚して初めて迎えた冬の日の事です。

 
早目に馬達を放牧し、馬房掃除を終え、少し離れた町へ買い物に出かける事にしました。
 
12月半ば、昨夜降った雪が3センチばかり積もっていたと思います。
私達は慌ただしく身支度を整え車の方へ向かいました。その時!
「ドデント!」
家から出て僅か2,3メートル歩いた所でパートナーは、そう叫びながら見事に両手両足を上にすってん転び!
すると照れくさそうに苦笑いしながら立ち上がり
打ち付けた腰のあたりを痛そうに擦りながら
 
「どうも雪道をを歩くのは苦手なんだよナァ!北海道の人って歩くの本当に上手だよネエー」
「どこが違うんだー??」
おそらく北海道に移住して4度目の冬を迎えての事と思われました
 
そう言われても?
パートナーは私の足元に目を向け頭を傾げています。
 
私は何と答えて良いのか見当もつかず、只その見事な転び方と同時に発する
「ドデント!」
の言葉が可笑しくて痛さを心配する思いは超えた。
人間失格です!
私は不本意にもクスクスと笑ってしまいましたよ!
この人は本当に人を楽しませる才のある人ね!そう思って。
 
その後、買い物を終えて帰宅するまでに
「ドデント!」と叫び三度は転んでいました!
ふらつきは数えきれない程です。
時にはキャシャな私にしがみついたり、(当時は凄く瘦せていました。今は逞しい小母さん)何か変です!
 
帰宅後靴箱の前で
「その靴、おかしいんじゃないの?」と、私。
 
するとパートナーはお気に入り靴を指摘され目をカッと光らせた。
肩にもグイっと力が入っているのが分かりました。
 
「まさか!かの有名なSさんから貰ったものだぞ!」
と、語気を強め脱いだ靴を持ち上た。
そして眉間にしわを寄せ、しげしげと見つめている。
 
そうでした!そうでした!
この靴はSさん(かの有名な芸能人)から頂いたんだと、前々から自慢して大層大切にしていた靴ですよね。
分かります!分かります!
ダークブラウンのしゃれたこの靴は、田舎町では到底手に出来ない代物ですもの!
 
とは言え長靴を履いて仕事をする時には転んだりしていません。
やっぱり変です!
私はふとパートナーが靴箱に納めた靴を手に取り靴底を見ました!
 
ここだー!原因はここにあり!
推理小説に匹敵する謎解きみたい!?
 
「これ冬履いたらダメでしょ!」
私と20歳の年齢差。社会的な知識には頭を下げっぱなしの日々。
日頃、別に萎縮している訳ではないが
チャンス到来です!
 
「エエッ!どうしてダ?!」
「滑り止めがどこにもないでしょ!だから転ぶのよ!」
 
パートナーは靴を取り上げ
「ここか!ここが問題なのか?!そんな事考えても見なかったよ!
と、驚いて靴底を見る。
目は完全に点になっていた。
靴底はツルツル。
片手で触りながら「なあーるほど!」と呟くと大きく頷いた。
 
以前私は、札幌の地下街で同僚と待ち合わせをした折、同じような経験をしていた。
地下街から外に出たとたん、僅か2,3センチの雪に足を捕られ同僚は強く転んだのです!
思いっきり!
交差点を渡るのにも私にしがみついてやっとの思いで歩いていた。
 
帰宅後、好奇心旺盛な私は夏靴を持ち出して確かめてみた。
危ない!ズルッと転んでお尻を打ちましたよ!
立ち上がってからもツルツル滑ってまともに歩けなかったのです。
 
この件はこれで納まりましたが、冬が来る度に
「ドデント!」
と、ズッコケたパートナーの姿が今も私の笑いを誘ってくれています。