ウサギ小屋

結婚して2年程経った頃、実家の祖父母の法事に出掛けた帰りにウサギを二匹貰って来ました。
 
これも又私が経験した事のない日常の始まりでした。
帰宅するなり、ウサギを家の中で放し飼いにすると言うのです!
 
実家では、棚作りの幅二メートル奥行一メートル程の檻の中に飼われていましたし、幼い頃から見聞きしていた飼い方は、やはり檻の中でした。
 
私はウサギを家の中でペットとして飼うのは初めてで、考えてもみませんでした!
これも又、生まれも育ちも違う事なのでしょうね。
 
最初は勝手が分からず戸惑っていましたが、要するに玄関がウサギ部屋に。
ですが、来客の度にウサギをなんとかしなければなりません。
小さなうちは良かったのですが、大きくなりますとやはり檻が必要です。
 
しばらくして、知人から
「ウサギ小屋を作るなら、牛小屋を増築した時の材料が残っているから、安く分けて上げるよ」
と、言われパートナーはその気になりました。
 
いよいよ始まりました!
材料は揃っています!東京から持ってきた道具も立派です!
 
場所を厩舎の一馬房の片側に決め、
パートナーは、牧場の仕事の合間合間に意気揚々と作業開始!
 
大丈夫かな?と、私。
傍目で見ていると、計りもせずに適当に進めています!
まずは、牧柵を作った残りの丸太をチェーンソーで切断。
幾度も長さを調整しながら、始めは高さ一メートル程の棚を作り上げました。
ここはキタキツネが多く、高くしなければ命を狙われますからね!
 
その後厚手のパネルを、チェーンソーで次々にカットしていました。
今は二匹でも、いずれ子供が生まれたら必要になる!そう考えたのでしょう。
四メートルぐらいの長い箱に仕切りを付け、4部屋作っていました。
 
天井と床を決めたまでは良かったのですが、網を張り、その各部屋に戸を付ける段階になって苦戦しています。
 
見ていると呆れるばかり。
まともに計りもせずに作り上げたのですから、スムーズに取付けられるはずもなく、あてがってみては取外しを、繰り返しているうちにだんだん乱暴になって、はた目にも苛立ちが伝わってきました。
戸の角を力一杯金づちで叩いたり、カットしてみたり、もう汗だくです!
 
二日程かかっていましたが、どうにか完成しました。
予想通り、出来上がりは惨憺たるものです!
 
でもまあ、ウサギは飼えますから良い事にしましょう。
 
それにしても戸口ときたら、台形だったり長方形だったり継ぎ接ぎだらけで、とてもまともな材料で製作した?とは思えません!
呆れましたが、私は無言でウサギを連れて来ました。
 
後日、
「ウサギ小屋出来たかい?」
材料を分けて下さった牛屋さんが見に来ました。
 
パートナーは、
「ウサギは、ここにいるよ」
と、涼しげな顔をして馬房掃除の手を休め、案内しています。
 
牛屋さんは、それを見て明らかに驚いていました!
喉に、何か詰まらせているのを力一杯堪えている様な表情で、口元をしっかり結び、顔全体が歪んでいます!
眉をピクリと動かし、しばらく食い入るように見回していました。
 
やがて片手を上げ、何も言わず車中の人に。
 
余りの出来具合に、感動した!?
まさか!?
 
こんな時は、挨拶だけ交わして誰もが無言なものですね。
 
私はここで気がつきました!
高学歴と大工仕事はまったくの別物なのだと!
 
8月末の暑い夏の日の出来事でした。